Hello the Masking Face 店主敬白&番頭日記

釣具を扱うビンテージタックルウェアハウス「Hello the Masking Face」の主と番頭が綴る日記です。

店主敬白20140305 少年釣具酔夢譚 その一

少年釣具酔夢譚 その一

こんにちは。店主石田小吉です。
前項で番頭さんが私の子供の頃の一大人気雑誌「陽気なブラックバスはサイエンスフィッシング」を取り上げてたので、少年時代の釣具の思い出を書いて行こうかなと思います。

私は昭和50年=1975年、小学校入学と同時に祖父の手ほどきで魚釣りを始めました。近所の沼地で鮒や鯉を釣っていました。初めてルアーを投げたのは五年生になった1979年のことです。

静岡市に住んでいた我々子供たちにとって、かつて徳川家康が住んでいた駿府城のお堀は大きな鯉が釣れる最高の釣りスポットでした。ここでは毎年子供の日にマスを放流して行われる釣り大会があり、その後に残ったマスを狙いにいくという小ずるいガキ共であった私たちの仲間うちに、ルアーを使ってみないかと言い出す奴がおりました。

ルアーなんて本でチラチラみたことはあっても実物なんて見たことがなく、実際友達がスピナーを持って現れた日にゃこんなもんで魚が釣れるわけない、とバカにしたものでした。
実際、駿府城内堀にてルアーを投げてみたものの、その友達も私も鯉の吸い込み釣りをやるような投げ竿しか持っていないので5gやそこらのスピナーが飛ばせるはずもなく、ほーら、こんなもんで釣れるわけないだろ、とゲラゲラバカにしたものでした。

が。学校に誰かがブラックバス釣りの本を持ってきました。
かの「陽気なブラックバスはサイエンスフィッシング」まさにその本でした。
それまで我々が読んでいた子供向けの釣り入門書は、漫画で書かれた釣り博士と教え子が展開する子供だましの釣りの手引きが魚種ごとにぎっしり書かれているハードカバーのものばかりでしたが、この「陽気な〜」は薄くスタイリッシュな装丁にカッコいいイラスト、文も非常にイカしていて例えばスピナーベイトのことを「コケティッシュな彼女」と表現したり、「そこはバスのサンクチュアリ」なんて書き方をしたり、見たこともないようなカッコいいタックルが燦然と輝いて載っていて、それはまるでピンクレディーキャンディーズしかテレビで見なかった歌世界に突然英語のロックを歌うゴダイゴが彗星のように現れたと思ったらシンセサイザーをピコピコならしてテクノという新ジャンルでいきなりぶっ飛んだ世界へ連れて行ってくれたYMOの登場を見たあのビックリの、まさにその頃だったため、とうとう魚釣りにもニューウェーブの波が押し寄せたか!と大興奮しながらこのキザな名著を大人になったような気分で穴があくように読み耽った男子の数はクラスの半分くらいは確実に存在しました。
そのくらい衝撃的な、オシャレでキザでニュータイプな本でした。そう、ニュータイプ
因みにこの年に最初のガンダムが放映されるも全く人気が出ず鳴かず飛ばずでしたね。あの当時はまったく面白さがわからなかった。

この本曰く。ルアーフィッシングにはルアーフィッシング用の竿とリールが必要だ、と。今使ってるような3メートルの投げ竿じゃなく、片手で投げられる6フィート位のしなやかなロッドが必要だと。
ロッドだって。竿じゃなくてロッドだせ。くー、かっけえなー。
早速祖父にねだりますと、優しい祖父が私に買い与えてくれたのがダイワのST-20、銀色のスピンキャスティングリールでした。当時の値段は三千数百円。が、ロッドは買い忘れて下さった為、相変わらず3メートルの投げ竿にこのリールを着けて投げる練習をしたのです。

ピストルみたいなグリップがついた竿、いや、ロッドが欲しい。ルアーロッドが欲しい、お爺ちゃん、買ってよーとまたまたねだったところやはりダイワの6フィートのグラスロッドを買ってくれました。
当時一番一般的だった、今で言うところのフジグリップ的な形のグリップがついた安いグラスロッドでした。そして北街道沿いにあった滝浪釣具に売っていたパチモノのスピナーセットを買い、一応ルアーの道具が揃いました。
かの本に載っていたようなゴージャスでクールなタックルとはだいぶ見劣りしましたが、ともかくはルアーを投げる準備は整い、クラスの仲間たちも大体みんなそんな感じの道具を親から買い与えられ、近所の沼や池でバスなんかいないのに取り敢えずルアーを投げるなんてことが始まりました。

この後、金持ちの家のK井君が持ってきたリールにクラスが仰天し、その衝撃から我々は巨大なマグマにゆっくりと飲み込まれていくことになるのです。

つづく




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